140字の俳句(日日の事)

煮物に向く三浦大根。 下太りで長さもあり、抜くのに

苦労する。近年は人手不足もあり、生産農家が急速に

減少しているそうだ。家庭菜園の三浦大根を抜きながら

何となく地動説を思った。

 大根引 矢張り正しい 地動説

 

追記 大根引で最も有名な句は、恐らく一茶の

   「大根引大根で道を教えけり」だと思う。

   数十年以上前の記憶だが、この句は漫画サザエさん

   のネタにも使われていた。

140字の俳句(日日の事)

朝方は大分寒くなってきた。晩秋の外気は澄んでいて、

マンションの輪郭もスッキリして見える。

背筋を伸ばして歩こうと思う。

 何となく 四角い気分 暮の秋

 

追記 次の句は秋元不死男です。「独房に釦おとして秋終る」

   氏は若い頃京大俳句事件で投獄された経験を持つようです。

   一時期は無季俳句に傾倒したが、比較的早く伝統俳句に

   戻ったとされます。

   

   

140字の俳句(日日の事)

昼なお薄暗い木々の間に、八手の花の白さが目立つ。

個々の花は八方に飛び散ろうとする玉を、懸命に

引き留めている様だ。それぞれの花が破裂している

ようにも見える。

 花八手 小さき爆発 繰り返し

 

追記 ご存知、飯田龍太の句です。

   「いまさかりなる花八手誰も見ず」

   確かに八手の花を見に行こうと、人を誘う

   話は聞いたことがない。

   

140字の俳句(日日の事)

長々と落ちている朴落葉。新しい内は葉の色に微妙な

変化が見られ、いい匂いがする。何となく手に取って

しまうが、之と言った使い道は無い。

 さばさばと 時に任せる 朴落葉

 

追記 森澄雄の分り易い句です。

     「朴落葉 落ちてひろがる 山の空」

   以前もご紹介しましたが、氏は芭蕉を尊敬していたとされ、

   格調高い作風で知られています。

140字の俳句(日日の事)

稲を刈り取った後の田に水が溜まり、降りしきる雨が

絶え間なく波紋を作っている。

まるで、刈り株のこれまでの苦労をねぎらうように。

 刈株の 雨の波紋に 囃されて

 

追記 刈株を詠み込んだ句を探しました。

   「刈株に倒れ伏したる案山子哉」

   寺田寅彦が有りの侭を詠みました。氏は物理学者として

   知られる一方、漱石の弟子として多くの俳句も残している。

140字の俳句(日日の事)

千両が赤い実を付けた。お馴染みの千両だが、その季節

になった。正月花としても使われ、とても長持ちする。

因みに千両の赤い実は葉の上に、よく似た万両の実は葉の

下に隠れる様に赤い実を付ける。

 実千両 日の焦点の 一つづつ

 

追記 一般に広く名を知られ、特に女性のファンが多い

   石田波郷の句です。

   「いくたび病みいくたび癒えき実千両」 氏は永年

   結核に苦しみ、完治することなく56歳で没した。

   氏の句は病状に関するものが多い。

  

 

 

140字の俳句(日日の事)

初冬の河原には、やや強く冷たい風が吹いている。

見上げると、驚くほどの高みに鳶が輪を描いている。

あんなに高くて餌が見えるのだろうか、それとも遊びなのか。

 冬の鳶 誰にも見えぬ 上昇気流

 

追記 高柳重信の句をご紹介します。

     「あまりのどかで生かして置けぬ鳶の輪ひとつ」

   この句で分かるように、氏は主流派の虚子の世界には

   全く馴染まず、独自の世界を開こうと孤軍奮闘しました。

   60歳で没しています。